♯2 パーティーでダンジョンライフの良し悪しきまる
「魔術師(マギ)でーす! 希望クラスは戦士(ファイター)、僧侶(クレリック)、鍛冶系クラフターも可! 薬学も学ぶ予定なので仲間になってくれた方にはもれなく各種ポーションの提供を約束します! 仲良くやれる方、大募集です!」
「戦士(ファイター)専攻予定です! 中学ではフェンシングで県大会までいきました! 前陣速攻系なんで狩人(レンジャー)など後方支援クラス希望です!」
「僧侶(クレリック)やります! 防御魔法を中心に習得する予定! 希望パーティーはじっくり探索系でお願いします。戦士(ファイター)か闘士(バトラー)がいるパーティー希望です」
「錬金術師(アルケミスト)を専攻される方いませんか? 一緒に錬金を極めましょう。錬金仲間と材料収集に協力してくれる戦闘系クラスを希望です!」
あっという間のことだった。開始の号令直後、生徒たちが一斉に動き出した。
自身の専攻するクラスや得意なスキルを伝えてメンバーを募る者、専攻クラスをアピールして引き揚げを希望する者、加入を希望するクラスを呼びかける者。教室にはそんな人たちの声が飛び交い、あれよあれよという間にパーティーが決まっていく。
当然だけど、みんな必死だ。ここで誰をパーティーに入れるかで三年の学園ライフが決まるといってもいい。成長の見込めない者、相性が悪い者、性格に難がある者を入れてしまえば、ダンジョン探索なんてうまくいくはずもなく、成績にだって大きく影響する。つまり、このたった三十分間が人生を大きく左右するのだ。
まさか初日からこんな形でパーティー編成を行うことになるとはおもわず、すっかり出遅れてしまったわたしは慌てて声をかけて回った。
「ごめん、定員に達しちゃった」
「希望クラスは治癒士(ヒーラー)だから」
どのパーティーからも加入を断られてしまう。
ならば自ら柱となって仲間を募ろう。わたしは椅子の上に立ち、
「こちら盗士(シーフ)専攻です! 盗士(シーフ)は探索(エクスプロール)における〝万能鍵(マスターキー)〟でございます! 行く手を阻む分厚い扉、重たい錠前、秘密を押し隠す箱――そのすべてを解く技術を持てる、道を切り開くスペシャリストです。ダンジョン探索には絶対欲しいクラスですよ! 盗士(シーフ)スキルは独学で身に着けたのでトラップの察知、解除と回避、閉ざされた扉の開錠、怪しい場所の先行調査などもお任せください! ダンジョンの知識なら負けません! 同じパーティーになった暁には五千冊の冒険記から学んだダンジョン探索の傾向と対策、彷徨う(ワンダリング)モンスターの生態と対処法、アイテムの知識と裏技、そして探索(エクスプロール)をもっと愉しむ知恵やダンジョン巡りの醍醐味といった情報の提供ができます! 一緒に快適なダンジョンライフを送りましょう!」と、選挙並みの大アピールを試みるも、みんな名乗りをあげるどころか、わたしと目も合わそうとしない。そんなに盗士(シーフ)って人気がないのかしらと絶望的になったけど、そういうわけでもなく、しっかり盗士(シーフ)をメンバーに加えているパーティーもある。そこではじめて、わたしは避けられているのだと知ったのだった。
わたしが星斬だからだ。
自分でいうのもなんだけれど、探索者(エクスプローラー)のあいだで星斬の名はえげつないほど著名だ。露都(ろと)や小南(コナン)といった名門一族に並ぶといえばわかりやすいだろうか。先の名門と違うのは一代でその名を世界に轟かせたことだろう。
わたしの両親は国家認定の伝説級探索者(クラス・レジェンド・エクスプローラー)。その名を出せば国会議員だって委縮する。
この学園内ではなにより、姉の名前が持つ影響力は計り知れない。
星斬媄(み)砂(さ)といえば泣く巨人(ジャイアント)も黙るといわれる魔法剣士(マギ・ソード)《流星砕き(メテオ・ブレイカー)ミサ》。現在、姉は二年生だが、A級探索者(エクスプローラー)のみ挑戦を許される高レベルダンジョンの探索許可証(エクスプロール・ライセンス)を持っているし、数々の財宝をダンジョン関連団体に寄贈もしている。全国探索者(エクスプローラー)ランキング高校生部門では二年連続で敵なしの一位。すでに複数の世界的に高名な探索者パーティーからお声がかかっている。ようは絵に描いたようなサラブレッドというわけだ。
これだけ大きな名前ともなると諸人が尊敬と称賛を掲げるわけではない。星斬の名を疎ましくおもう者もいる。同学年というだけで「伝説の世代」と周りから過大評価され、同じ教室、同じパーティー、席が隣り合っただけで「星斬の仲間」として無駄にハードルを上げられる。その結果、比較され、落胆され、嘲笑を浴び、時にはメンツを潰される。星斬の名の威光と姉の名声に押しつぶされ、学校を辞めていった生徒や教師は少なくない。
そんな星斬の子で、メテオブレイカーの妹。わたしがみんなから避けられてもなんら不思議はない。プラス、さっきのウンチクトークも少なからず影響しているだろうけど。
つまり、わたしは早くもクラスメイトたちに「関わりあいになりたくない奴」認定をされてしまったわけだ。わりと早い段階で、「こいつとは関わりあうな」という意思が自然にクラスメイトたちに共有されていたのだろう。
次々とパーティーができていく中、見るからに問題児っぽい生徒が孤立していき、気がつけばわたしもその孤立者の一人になっていた。